まもコラム

起きたらどうする?介護施設のヒヤリハット

起きたらどうする?介護施設のヒヤリハット

はじめに

介護施設で働く方は、「ヒヤリハット」という言葉を聞いてどのような印象を抱きますか?
どちらかというとネガティブな印象を抱く方が多いと思います。それもそのはずで、ヒヤリハットは、扱い方を少し間違えると大きな問題に発展してしまうかもしれない要素を持っています。
今回の記事では、介護施設のヒヤリハットに対する考え方や、対策の方法などを紹介していきたいと思います。

ヒヤリハットとは?

ご利用者や介護事業所へ大きな損害とまでは言えないけれど、軽微と考えられる影響を与えた内容をヒヤリハットとして扱うことが一般的です。
ただ、「この条件を満たしていればヒヤリハットである」といった明確な線引きがあるわけではなく、事業所ごとに考え方や取り扱い方は異なります。
内容もご利用者の生活や支援に関するものから、事業所の備品を壊しかけた、介護以外の業務指示を忘れてしまった、などもヒヤリハットとして取り扱う場合もあります。

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介護施設でのヒヤリハット

介護施設のヒヤリハットの例をいくつか紹介します。ヒヤリハットとはどういうものなのかを考える参考にしてみてください。

ケース1 車いす使用中のヒヤリハット

特別養護老人ホームに入所しているAさんは、全身の筋力低下のため車いすを使用しています。また、重度の認知症であり自分から喋ることはありません。
日中は車いすに座ってリビングで過ごすことがほとんどです。特に危険な行動をとることはなく、Aさんに対して介護職員は常に見守りが必要とは考えていませんでした。

ある日、普段通りリビングで車いすに座り過ごしていたAさん。
特に変わった様子はなかったので、介護職員は他のご利用者を居室へ送るため数分リビングを離れたのですが、介護職員がリビングに戻ってくるとAさんが車いすの前方へずり落ちそうになっているのを発見しました。

ケース2 浴槽用すべり止めマットでのヒヤリハット

グループホームで働く介護職員のBさんはご利用者の入浴準備をはじめました。
この事業所では、入浴中の転倒を予防できるように浴槽の底に吸盤のついたゴム製の滑り止めマットを敷くことに決めています。
Bさんはいつものように滑り止めマットを浴槽に敷き、お湯を入れました。お湯が入った後に浴槽を見てみると、滑り止めマットが浮いているのを発見。浮いていた滑り止めマットを手に取り吸盤を確認してみると、ぬめりや入浴剤の影響を受けたのか滑りやすい状態になっていました。

ケース3 ベッド上でのヒヤリハット

特別養護老人ホームに入居しているCさんは脳梗塞の後遺症によって左半身に麻痺があり、ベッドからの起き上がりや立ち上がりなどに介助が必要です。
一人でこれらの動作をすることは難しく、無理にしてしまうと転倒する危険性が高い状態でした。

ある夜間の出来事です。
この事業所ではご利用者の睡眠状態を確認できるシステム機器を導入しており、その機器を利用しながらご利用者の状態に合わせて見守りをしていました。
機器を通じてCさんが目を覚ましていることがわかり、介護職員が様子を確認するために居室へ入ると、Cさんはベッドの上で横向きに寝転がりベッド横にあった車いすに手を伸ばしており、あと数㎝でベッドから落ちてしまう状態を発見したのです。Cさんに話を聞いてみると、自分でトイレに行こうとしていたという話を聞き取れました。

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ヒヤリハットが起きてしまったら

ヒヤリハットが実際に起きてしまった際の特に重要な3つのポイントを紹介します。ヒヤリハットが起きてしまった際の参考にしてみてください。

1. ヒヤリハットを見える化する

まず、ヒヤリハットが起きた際に大切なのは、「起きたことを文章にして見える化する」ことです。

ヒヤリハットはある事柄に対して「ヒヤリとした」「ハッとした」など、言わば気づきや感情の動きが根底にあります。
これらをスルーせず見逃さないことが重大な事故を予防するために大切です。
ヒヤリハットとして捉えることで、上記の点にアプローチすることができると言えるでしょう。

また、ヒヤリハットとして見える化する際には、主観や憶測を交えず起きたことをそのまま文章化することが重要です。
主観や憶測が混じると実際に何が起きたのか他者にわかりづらくなってしまうので気をつけてください。

例えば、心身ともに自立しているご利用者が、ベッドで横になっていたはずが床で寝転がっていたとします。
本人は「床がひんやりしていて気持ちいから寝転がった」と話していました。この場合、どのように事柄を捉えるのが正しいでしょうか。
仮に発見した人が「ベッドからころげ落ちた」、「転倒した」と捉え報告したとすると、本質からずれてしまうかもしれません。文章にする際に正しいのは、「床に寝転がっていた」「自分で床に寝転がったと話している」という部分だけを記録することです。主観や憶測を除いて、発見時のありのままを文章にしておくことが、事柄を正確に把握するために大切だと理解しておきましょう。

2. ヒヤリハットが起きた原因を探る

ヒヤリハットを文章化した後は、チームでその内容を共有し、ヒヤリハットが起きた原因を探り対策を立てましょう
その際、大切になるのが原因を探る作業です。原因を読み間違えると、せっかく考えた対策も効果が期待できなくなってしまいます。
介護にまつわるヒヤリハットは大きく3つに分類されます。

  1. ご利用者(介護職員)の心身状況にまつわるもの
  2. 環境にまつわるもの
  3. 業務手順にまつわるもの

この3つの視点を持ちヒヤリハットを分析することで事例をより多面的に捉えられ、的確な原因を見つけられる可能性がぐっと高まります。
例えば、ご利用者が歩いていてつまずいたとします。
この時に上記で紹介した視点に沿って考えてみると以下の様になります。

  1. ご利用者(介護職員)の心身状況にまつわるもの
    「つまずいた理由はご利用者の下肢筋力の低下だった」
  2. 環境にまつわるもの
    「廊下に置いていたソファの角につまずいた」
  3. 業務手順にまつわるもの
    「本来は付き添いをするべきルールを決めていたのに実行できていなかった」

実際の介護現場で起こるヒヤリハットは、原因がひとつとは限らないことが多くあります。多面的にヒヤリハットを捉えて原因を見落とさないようにする注意が必要です。

3. 損害の大小で対応を変えない

ヒヤリハットは事故にいたらない軽微な事柄ではありますが、一歩間違えると大きな事故につながることを理解し再発予防に取り組む必要があります

例えば、ご利用者が浴室で足を滑らせたが、自分でバランスを取り直した、というケースがあったとします。
これ自体はヒヤリハットでの取り扱いとなることが多いでしょう。しかし、バランスを持ち直すことができなかったらどうなっていたでしょうか。大きな事故につながっていた可能性が高いと考えられます。
たとえ事故につながらなかった場合でも、そこに潜むリスクを察知し、損害の大小で対応を変えずにしっかりとその事例と向き合うことで、大きな事故の予防につながります。

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ヒヤリハットを前向きに捉えて分析しよう

ここまでヒヤリハットについてお話ししてきましたが、前提として、ヒヤリハットが起きたことや、気づけたことは前向きに捉えることが大切です。
「大きな事故につながる前に気づけてよかった」と、ヒヤリハットを歓迎するくらいの心構えでもよいかもしれません。
ヒヤリハットをどんどんと表に出し、重大な事故の予防につなげるために事柄の分析を進めるようにしましょう。

ヒヤリハットを分析し、大きな事故へつなげないために大切なのは、上記で紹介したことを「PDCAサイクル」に当てはめ継続して取り組むことです。
PDCAサイクルとは、様々な企業などで取り入れられているマネジメントや品質管理の手法のことを言います。

P(Plan) 計画
D(Do) 実行
C(Check) 評価
A(Action) 改善

ヒヤリハットに当てはめると、ヒヤリハットの分析から事故を予防する対策が計画(Plan)、それを実行(Do)し、実行したことの効果を評価(Check)する、最期に評価をもとに改善(Action)をしていくことになります。
これらを途切れることなく繰り返すことで、ヒヤリハット、しいては大きな事故の予防につなげることが可能となります。

近年、ヒヤリハットや事故を予防する上で期待されているのが、ICT技術を活用したご利用者の見守りや体調管理を目的とした機器の利用です。
全く活用していないという事業所を探す方が難しいのではないでしょうか。ICT技術うまく活用することで、ご利用者の安全を高め、職員の業務負担を軽減することが可能です。
株式会社ZIPCAREでも、ご利用者の状態把握の一助となる機器があるので興味のある方は参考にしてみてください。

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おわりに

事例をはじめ、対応方法や予防策を立てる際の考え方などについて紹介をしてきましたが、いかがでしたか。
ヒヤリハットは、もちろん発生しないことが最も良いことではありますが、ヒヤリハットが起き、それに対する分析や予防を行うことで、さらなる重大な事故を未然に防ぐことができるという点では歓迎すべき側面も持ち合わせています。
ヒヤリハットに対する知識を深めながら実践を重ね、ご利用者の暮らしを守っていただければ嬉しく思います。

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【参考資料】

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有田 和弘

介護の現場で介護スタッフ・介護支援専門員として10年以上の経験を積む。
現在は小規模多機能型居宅介護施設で介護支援専門員として高齢者の生活支援に携わりながら、介護に関する記事を書くライターとしても活動中。

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